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金庫に指を挟みました。

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キン肉マンの額に刻まれた「肉」の字が、エネルギーのバロメータだということは、当時この国民的マンガに熱中した世代の少年たちなら、誰でも知っているだろう。
キン肉マンは体力が無くなってくると、まるで水位が下がってゆくように、肉の字が白く変色してゆく。
ウルトラマンのカラータイマーのような警告の合図だ。
ちなみにラーメンマンの額にある「中」の字には、そのような機能はない。

昨夜、わたしは自分の血の気がさーっと引いてゆくのを怖いぐらいに実感した。
きっかけは実に間の抜けた話なのだが、金庫に指を挟んだのである。

金融機関で使われているような耐火金庫で、扉の厚みが10cmぐらいある頑丈な金庫である。
挟んだのは左手の親指で、痛みでしばらく声も出なかった。

すぐに給湯室へ向かい水道の水を当てたが、内出血でみるみる黒ずんでゆく自分の指をみて、やばいな、と思って後輩を1人呼んだ。
駆けつけた後輩はすぐに事態を理解して、氷水を用意してくれた。
氷水に指を入れた瞬間、激痛と鈍痛がサンバを踊り出したような状態になった。

給湯室の騒ぎに気づいた他の社員たちが、次々とやってくる。
誰かが誰かに言う。
「血を抜いたほうがいいか、ネットで調べろ」

このときわたしはもう立っているのが辛くなり、椅子を持ってきてもらった。
この辺から記憶があやふやなのだが、今度は座っていることもできなくなった。
さーっと自分の血の気が薄れていくのがわかった。
「真っ青ですよ」と最初に駆けつけてくれた後輩の声を聞いたのは憶えている。

「横にしろ」と誰かがいい、「足を持て」と誰かが答え、「タオル敷け」と誰かが言って、気がつくと、わたしは天井を見上げていて、年配の社員がわたしの頬に手をあてて、体温を取り戻そうとしていた。
指を挟んだのは左指1本なのだが、両手がグローブになったみたいに、指先の感覚が失われていた。

やがて誰かが電話をしている声が聞こえた。
「はい、急性の貧血だと思います」(ああ、倒れたのか)
「年齢?36歳です」(34歳だよ!)
「えーと、金庫に指挟んだみたいです」(そうなんですよ)
「はい?いや自分で挟んだんです」(…はい)
「いや、だから自分で金庫に指を挟んだんです」(クドイよ)

遠くから救急車のサイレン音が聴こえてきた。
わたしの意識は戻っていたが、救急隊員は慎重だった。
血圧を測られ、正常値に戻ったことを確認すると、救急病院の手配をしてくれた。

救急車には乗らず、後輩にわたしの車を運転してもらった。

骨が折れている自覚症状はなかったので、どうせ診てもらって冷やす以外に方法は無いと思ってはいたのだが、案の定念のためにとったレントゲンに異常はなく、湿布と痛み止めをもらっっただけだった。
時間外の診察ということ、会計ができず、預け金として5000円渡す。

いろいろ世話を焼いてくれた後輩と遅い晩飯を食べ、家まで車で送ってもらい、車のほうは彼にそのまま預けた。きょう届けてくれることになっている。

途中、後でごちゃごちゃ言われるのも嫌だったので、社長に1本電話で報告する。
「そりゃ、飲んだほうがいいな。これから飲むか?」と言われたが、アルコールで痛みを消す方法は、たぶんわたしには効かないので辞退した。
しかし、病院からもらった痛み止めも、まるで効果がない。
そのせいで、昨夜は疲れているのに、なかなか眠れなかった。

怪我したのは左手の親指だけなので何をするのにも、さほど苦労はない。
わたしはパチンコもインベーダーゲームもやらないし、ギタリストでもピアニストでもないので、せいぜい服のボタンを開け閉めするとき、難儀するほどである。

キン肉マンはエネルギーが無くなったとき、にんにくを食べることで復活する。
わたしにとっての「にんにく」はなんなのだろう?と考えている、ずっと。

【397/1973】
by tabijitaku | 2008-06-21 10:25 | 私が私であるための1973枚(絵)


中庭、それは外。でも内側


by tabijitaku

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