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映画「春との旅」を観て

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深谷シネマは、わたしの場合、車に乗って1時間ぐらい走ってゆく映画館だ。
いわゆるシネコンではない。酒造蔵跡に作った小さな映画館。
名画座ともちょっと雰囲気が異なる映画サロンみたいな場所。
入り口で1200円の映画代を払うと昔の床屋さんみたく飴玉をくれる。

この映画館に来るのは二度目だが、映画を観るのは今回が初めて。
前回は山田洋次監督の舞台挨拶があることを知らずに訪れ、それを目当てに来場したひとで当日券が完売だった。ちなみにそのときの上映作品は「キネマの天地」。

今回の上映作品は春との旅
映画のテーマのせいか来場者はご年配の方ばかりだった。
わたしの隣席の2人連れも年配の母娘だった。
座席に座るなりずっとペチャクチャ喋るは、携帯の着信は鳴らすは、「映画が始まったらしゃべっちゃダメよ」と大きな声で言うわで、マナーのない観客だった。
話が逸れるが「静かにしなさい」と大声で言うデリカシーの無いひとがけっこういる。
先日も、とあるレストランでわたしの前に座った親子連れがそうだった。
子どもが掃除機みたいな音量で泣きわめいており、それを注意するヒステリックな母親の声は、笛吹ケトルみたいに耳障りだった。
機転をきかせたウェイトレスが、車のおもちゃを子供にあげたら、コンセントを抜いたみたいに掃除機は静かになったものの、笛吹ケトルは「お姉さんにお礼は?お礼は!」としつこく迫り、子供が完全にそれを無視していたので、母親はウェイトレスに「すみません」と言った。
というか、お前がスミマセンだろ、と思った。

一方、深谷シネマの観客は映画が始まると静かになった。
エンドロールが終わったあと、隣のおばあさんは娘にひとこと言った。
「アタシ、この映画好き」

それは映画にとっておそらく最高の賛辞だと思う。
映画「春との旅」は、ここで終わってもいいのに、というところ、たぶんあえて終わらせていない。
両方の映画を知っている方なら解るかもしれないが、この映画で戸田菜穂の演じる役どころが、松本清張原作の「鬼畜」における大竹しのぶの婦警役を連想させた。

主演の仲代達矢はとにかくよく泣く。
惨めさで泣き、嬉しさで泣き、悲しさで泣く。
映画は男の一生を描いた物語というよりは、一生分のツケを描いたような作品であるが、それまでの人生の多くの岐路で、「ああ、そっちを選んだんだろうな」と思わせる切なさが漂う。
どの涙も、その日1日分の涙ではなかった。

もう1人の主演は徳永えりというわたしの知らなかった女優さん。彼女は仲代達矢の孫を演じる。
特徴的なガニ股でいくつもの名シーンがあった。

「春との旅」は5月公開の映画で、何度か観ようかと思いつつ、機を逃してきた。
しかし、深谷シネマで観られたことで、飴玉1つ分以上に得した気分である。
by tabijitaku | 2010-09-19 16:48 | 私が私であるための1973枚


中庭、それは外。でも内側


by tabijitaku

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